編集者が電子書籍を読んでみた

アクセスカウンタ

zoom RSS 『夢十夜』|編集者が電子書籍を読んでみた(3)

<<   作成日時 : 2012/12/31 05:31   >>

トラックバック 0 / コメント 0

紙の既刊本のテキスト
WEBサイトで公開されているテキスト
紙の書籍を電子化して発売されているテキスト

とは違います。


電子書籍用に、再編集・校正した、
オリジナル・テキストです。

一字一字、読み比べてみましょう。

編集者が、原文のどこに注意を払っているか、分るはずです。


--------------------------------------
『夢十夜』
夏目漱石


   第一夜

 こんな夢を見た。
 腕組みをして枕元に坐っていると、仰向《あおむ》きに寝た女が、静かな声でもう死にますと言う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔《うりざねがお》をその中に横たえている。真っ白な頬の底に温かい血の色が程よく差して、唇の色はむろん赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然《はっきり》言った。自分も確かにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤いのある眼で、長い睫《まつげ》に包まれた中は、只《ただ》一面に真っ黒であった。その真っ黒な眸《ひとみ》の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
 自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢《つや》を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍《そば》へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、と又《また》聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと言った。
 じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組みをしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
 しばらくして、女が又こう言った。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片《かけ》を墓標《はかじるし》に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
 自分は、何時《いつ》逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行《ゆ》くうちに、――あなた、待っていられますか」
 自分は黙って首肯《うなずい》た。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で言った。「百年、私《わたくし》の墓の傍《そば》に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」

続きを読む
 



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

『夢十夜』|編集者が電子書籍を読んでみた(3) 編集者が電子書籍を読んでみた /BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる